ロングインタビュー  その10

——ついにこのインタビューも10となりましたね~

 

銀子  よくひっぱりました笑 

 

——今回は洋画で、銀子さんのお好きな作品で、小説がもとになっているもの、です。

 

銀子  長くなりそうな予感が笑 たぶん延々語るっていうのは最初で最後だと。

 

——覚悟はできておりますので、心置きなくどうぞ。

 

銀子  はい、今回は“スモーク”です。

原作ポール・オースター、監督ウェイン・ワン

ですが・・・映画が始まると「a film by  Wayne Wang and  Paul Auster」と。

つまり、原作者(作家)がシナリオを書き、のちにキャスティングにもかかわりを持った、という作品。二人で作った映画なんだ!ですね。

 

——そういうことは大変珍しいことなんですね。原作っていうのはどのような?

 

銀子  オースターがニューヨークタイムズに書いた短いクリスマスストーリーだったそうです。原題は「オーギー・レンのクリスマスストーリー」

新聞だと特集で1ページ。それを読んだ監督が感動したようですが、ちょっと引用しますと

 

『読み終わったときには僕はとても近しいひとから素晴らしいクリスマスプレゼントをもらったような(中略)僕は妻に尋ねた。「ポール・オースターって誰?」 』

 

そしてこれが映画になった時には、ストーリーも登場人物も膨らみ、元の小説はラスト数分で映像になり姿を見せます。

 

——その数分間の物語は小説に忠実なんですか?

 

銀子  そうです。これがラストに来るために二時間かけた映画があるというわけですね。

 

——タイトルが“スモーク” つまり煙ですね。

 

銀子  ブルックリンにあるタバコ屋、正確には“ブルックリン葉巻商会” 小さな店。そこを舞台にしてストーリーが始まる。店主はオーギー、演じたのはハーベイ・カイテル。もうね、大好きな俳優のひとりです、セクシーなんですよ~

 

——はあ、セクシー?ですか?失礼ながら若いわけでもスタイルがいいわけでも美形でもないですよね?まあ、銀子さんが好まれるのはそういう単に美しい男性じゃないことは知ってますが笑

 

銀子  “タクシードライバーからして妙な役でした笑 

ジョディ・フォスター演じた少女娼婦のポン引き。ランニングシャツなんか着てるヘンな男。名前がスポーツ・・・可笑しすぎます。

で、“ピアノレッスン”では裸体を披露?してますが、もう、素敵でしたね。人間というより動物って感じ笑

 

話がそれました・・・そのタバコ屋の客として登場し、オーギーと絡んでいくのが作家のポール。俳優はウィリアム・ハート

役としてはスランプ、というか妻を亡くして立ち直れずにいる作家。そのポールと知り合った少年ラシードとラシードの父親捜しの話が絡みます。

 

——作家で名前がポール?それは原作者と同じではないですか?

 

銀子  それはあまり関係ないみたいです。作家というとかっこよさそうに思えるけど、このポールは服装もヨレヨレで、鍵も壊れてるようなボロいアパート住まい。部屋も散らかってる・・わけですが、わたしはまたこのアパートがとても好きなんです!

奥が仕事部屋、ま四角じゃなくて、半円形みたいに窓があり、道路を見下ろす。窓枠とブラインドは白。でそこにクッションが置けて座れる!

あとで知ったんですけどこのアパートだけはセットだと。なんというリアリティ!

 

——映画に登場する部屋も気になるんですね笑

 

銀子  それはとっても気になります。どの映画でも。着ている服も、おいてあるものもね。

 

——小物もでしょうが、お気に入り作品なのでお気に入りシーンだらけだとは思いますが、ぜひ紹介を。

 

銀子  オーギーの昔の恋人として現れるのがルビー(ストッカード・チャニング)。「あなたの娘だから会って」と言われて (嘘つけ)と思いながらも無理やり連れていかれる。

「父親なんかいない」と悪態つかれて追い払われるようにオーギーとルビーは帰る。

そのあとの娘・フェリシティの顔です。

 

——顔だけ?セリフはなし?

 

銀子  そう。二人を追い出した後、アクションもなし。無言のアップ。それが彼女の気持ちすべてを物語る。切なく美しい。

この女優はそれ以来ひとつくらいしか映画で見かけないんです。それも大した役じゃなかったなあ。

 

もうひとつの好きなシーンも無言です。セリフなし。

ラシードが父親サイラス(フォレスト・ウィテカー)に本名を明かし、つまり自分が捨てられた息子なんだということですが・・・そこで父親は激しく動揺しひと悶着あったあとで

みんなで野外のテーブルを囲んでいるシーンです。

誰もが無言。

でも、映像にはないその前後の場面とそれぞれの胸の内をしみじみ想像させます。

葉巻を切らしたポールに自分の葉巻(たばこ?)を黙って差し出すサイラス。
ラシードは無言のままちいさな(母違いの)弟の頭を撫でる。

——うーん、そういうのってもしかして小説でいうところの「行間を読む」みたいなものですか?

 

銀子  そうかも。セリフのないシーンもそうですが、ほかにもあります。話が終わりになるにつれてだんだん俳優の顔のアップが多くなるんですよ。もう、画面いっぱいです。

こちらはそれをじっと見せられる。で、想像力を試される。

とても小説に近い、ってことでしょうか。

 

——街角のちいさなタバコ屋から始まるストーリー、お話を聞いていくと情景が広がるようです・・・

 

 

銀子  タバコ屋というと、もうひとつ話があります。

 

——映画ですか?小説ですか?

 

銀子  いえ、これはわたしの。

ずいぶん前のことです。

友だち、もちろんこの映画が好きなひとでしたが、名古屋にシガー・バーがある、そのロケーションがこれと似てるというので行ってみたんです。ほんとに交差点の角でね。感激しましたよ。

とにかく喫煙者は極悪非道・人非人扱いの昨今ですからね、シガー・バーなんていうのは迫害を避けて絶滅危惧種たちがひっそりと地下で集う、そんな店をイメージしていたんですが・・・

 

——違っていた?

 

銀子  大きな交差点の角でね、オープンテラスみたいになっていて全席喫煙可。まあ、あたりまえですよね笑 今はどうだか。 

明るいし、ちょっとしたライブなんかもときおりやってるようでした。

 

——そこで葉巻か煙草を買ったんですか?

 

銀子  いえ、昼時だったのでカレーを食べました笑 

でもその向かいの角からオーギーになりきって写真を・・といってもオーギーみたいにいいカメラではなくてデジカメでしたが・・・撮って帰りました。懐かしい思い出です。

 

えーっと、宗教的な意味でキスシーンをカットされるっていう映画があるんですが・・・

 

——はい、“ニューシネマパラダイス”ですね。もちろん知ってます。

その映画のキスシーンがカットされたんじゃなくて、「キスシーンカットの映画の映画」ですよね。ややこしいですが笑

 

銀子  “スモーク”の中でのオーギーと客との会話で、

『こんなもの、やめればいいんだ。タバコなんかすってるとこみつかったら壁の前に立たされて射殺されるんだよな』

『今日はタバコ、明日はセックス、もう3~4年もしたら知らない人間ににっこりするのも違法になるぜ』

ていうのがあって・・・

射殺はまああれですが笑 そのうち映画の喫煙シーンもカットされるようになるのかなあ。カットまで行かなくても、「劇中不適切な行為が登場しますが、時代背景を考慮してそのまま云々」って但し書きがつくとかね~

 

——たしかに笑 昔のようにタバコをすうのがカッコいいって時代ではないですから。

映画の中でも難しくなりますねえ。

 

銀子  主役級のいかにも、な渋いカッコいい俳優がタバコをすうってシーンなんかはわたしにはどうだっていいんですけど、俳優と同じで主役としてじゃなくて助演のタバコ。

たとえば“ゴッドファーザー

ドンが襲撃され入院した時。再度送り込まれるかもしれない殺し屋から守るため、病院前に立つマイケルとパン屋の男。タバコに火をつけようとするけれど、緊張と恐怖で手が震え、なかなか火が付かない・・・

 

“ナイト・オン・ザ・プラネット”だと

タクシーに乗せた女性客に

「ちょっとタバコやめてくださらない?」と言われ

「はーい、母さん」

そう答えて、すっていたタバコをもみ消し、その手ですぐまた次のタバコに火をつける

はすっぱな運転手のウィノナ・ライダー

 

“天国と地獄”では

もうもうと煙漂う刑事部屋や記者会見場。

それと

犯人竹内の勤務する病院のゴミ焼却場で

「ブリキは燃えねえってんだよ!」タバコを吸いながらやさぐれる

汚い火夫、藤原釜足

 

そういうのがわたしにとって大事な宝物みたいなシーンでして。

いやいや、映画にとっても大切なシーンでしょ?

・・・と言っておきます。

編集でカットですか?笑

 

——それはないです笑

元の小説である「オーギー・レンのクリスマスストーリー」をほぼ忠実に、というラストシーンについてはいかがですか?

 

銀子  肝心のクリスマスストーリーが始まる前です。

ポールがレストランでオーギーから話を聞いている。そこも原作どおりです。そしてお互いの腹を探るような笑顔が交互にアップになる。

ただ、原作だとここでポールの心の内が数行にわたってあるんですが、映画ではセリフもナレーションもなく、ただ、黙って微笑むポールに集約されてるんです。

そして・・・クリスマスの情景が・・・トム・ウェイツのInnocent when you dreamをバックにこれまたセリフひとつなくモノクロームで流れる、という。

 

 

もし興味を持たれて、まだみていないならどうぞ、とは思います。

感性の違うひとにとっては退屈極まりない映画でしょうが。

音楽でも映画でも同じです。みんな自分の好みがあって、心を揺さぶられるポイントって違いますもんね。

 

 

——実のところ、まだまだ聞き足りないんですけど、あまり引っ張るな、という銀子さんからの話もありますので、いったんこの辺でロングロングインタビューは終了ということにいたしましょう。どうもありがとうございました。

 

(いったん・終了)