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夢のような宴席は
そんなこんなで
瞬く間に過ぎてゆき
お開きとなる。
店の戸を開け外に出ると
温もった頬に冬の空気が心地よい。
寒いだろ?
おれのを掛けてけよ、と
ミフネくんがわたしの襟元に深紫のマフラーを。
すっぽりうもった鼻先に
タバコとさっきまでの鍋のにおいと
あと、なんだかいい匂いがした。
たぶん、昭和の男の。
ぼーっとしてしまったわたしに
すかさずナカダイくんが耳もとにささやく。
ここでふたりとはお別れですよ、と。
◇
素足に下駄のカツくんと
(たぶん)カシミアのロングコートのミフネくんは
肩を組んで北に向かって歩き始めた。
いい宴会をありがとうな。
またたまには顔見せてくれ、と言いながら。
そしてわたしとナカダイくんは南へ。
その時、三味線が聞こえた。
あ、カツくん、ほら、
と振り返りかけたわたしを
ナカダイくんの手が強く押しとどめた。
振り向いては、いけません。
短いけれど厳しく優しいその言葉に
たくさんの意味が込められていることを
瞬時に察した。
と、同時に涙があふれる。
さあ、もう少し歩きましょうか。
ありがとうが声にならなくて
わたしは黙ったままうなずいた。
(終)