さあすっぽんだ。
ここで食べないわけにはいかない。


カツくんは器にすっぽんを取り分けている。

ヤナガワおまえ、最近やせ過ぎだ。
昔はもっと肉付き良かったよな?
まーたろくでもない男とややこしいことになって
恋やつれしてるんじゃないのかあ?
いかんいかん、
女はもうちっと肉付けて精つけて、っとぉ~
そんでもってこの後おれといいとこ行こうぜ、な?


こら、カツ、調子に乗るなよ。

そう言って笑いながらミフネくんがその器を取り上げ
おい、ほら、食えよ、食ってみろうまいから、と
わたしに差し出す。

ナカダイくんはあの眼で見てる。


わたしはそれを受け取り固まった。
さあどうするどうする。


湯気のあがる器を目の高さまで持ち上げ
わたしは声色を使って言った。


「・・・このすっぽん、おろそかには食わんぞ」

 

 

 

 

一瞬静まる座敷。
(この一瞬がわたしにはとても長く感じられた)


カツくんとミフネくんは
あのぎらつく眼で顔を見合わせてる。
箸とちりれんげを持ったまま。

静寂を破ったのはナカダイくんだった。

あーっはっはっはっは!これはいい!
いや、恐れ入った!

それにつられるようにあとのふたりも大声で笑い始める。

身体をゆすり三人の男たちがあのよく響く声で
げらげらと笑っている。
わたしがキャメラマンだったならこの掛け値なしのシーンを
フィルムに収めたことだろう。

わはははは
そうかヤナガワ!そう来たか!
クソまじめな顔しやがってこりゃまた結構!とカツくん。

ミフネくんはポケットからハンケチを出して
汗を拭きながら

ああ、久しぶりに笑った気がするな。いいセリフだ。
ただな、菊千代様のセリフじゃなかったのが口惜しいぜ。
しかし許す!いいぞヤナガワ。


 

(つづく)