「私もからっぽなの」 空気人形続き


高橋昌也って

すっかりいいおじいさん役

するようになったなあ


劇中 なかば

主人公 ペ・ドゥナとのシーンは素晴らしい

こんな日曜日の明るい午後に

一人でみているとじーんと来てしまう

これは東京のどこなんだろう



人形が心を持つようになるお話なんて言うと

ファンタジーのようだけど

決してそうじゃない

からっぽの私

あなたもからっぽなの?

私が満たしてあげる

ペ・ドゥナのモノローグは

吉野弘の詩だった





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生命は    吉野 弘

生命は

自分自身で完結できないように

つくられているらしい

花も

めしべとおしべが揃っているだけでは

不充分で

虫や風が訪れて

めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて

そのなかに欠如を抱き

それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分

他者の総和

しかし

互いに

欠如を満たすなどとは

知りもせず

知らされもせず

ばらまかれている者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思えることさえも許されている間柄

そのように

世界がゆるやかに構成されているのは

なぜ?

花が咲いている

すぐ近くまで

虻の姿をした他者が

光りをまとって飛んできている

私も あるとき

誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない