さくら寿司に蓮根

今週のお題「桜」

 

 

『さくら寿司に蓮根』

 

 

窓の外には
春の日差しが満ち溢れ
近所で始まった、家を新築する大工仕事の
威勢のいい音が聞こえてきます


植物の色はといえば
黄と緑にほぼ統一されているし
真新しい制服姿の学生が
自転車をこぎ裏道を走り
買い物に出かければ
新しい店員の緊張気味の接客


そのような午後、
わたしは薄暗い台所で
蓮根の泥を落とし洗い皮を剥き
さくっさくっと包丁を振るうのです

 

 

くら寿司には
あでやかでいろどりよい材料が欠かせません
お重のふたを開けたとき
うわあと声を漏らすほどの


だけども
そこに混ざっている蓮根は
ちょっと異質で
仕上がりまでの過程が一興なのです

 

 

泥に塗れたままパックされた蓮根は
不精な中年の無駄毛処理を思わせます

ところどころに隠し切れない傷もあり
泥が入り込んで洗っても取れません


手に取り、
しばらく見つめて息を込め、
節でぱっきりと折ってやれば
彼らはがくっとこと切れます



穴からはつつうと体液のように
薄い泥水が流れ落ち
わたしの手にかかります
またそれを少しの間味わってやるのです

取れない泥は
包丁の角を使ってこそげ取るのですが
縦の繊維が強いのでスムーズにはいきません

手強いです

 

やがて薄く輪切りにされて
水に放たれた蓮根は
見違えるように愛らしく白く


でも、生のまま噛んでやると
微かにレジスタンスの味がします

これはやっぱり若者にはない
泥に一度浸かったことのある中年の味なのです


・fin・