煙たい女
閉店間際に社長がやってきた。
いつものことだ。
仕事上の指示をあれやこれや受けた後で
手短に世間話をする。
その会話の中で
「アンタは命に執着ないんか」
と驚いたように言われた。
「そうですね。やりたいことはたいがいやったし」
先月、わたしは退職届を出した。
口頭で退職の意思を伝えたのは
2月の末のこと。
すぐに、というわけにはいかず
結局5月のシフトを終えた後での退職となった。
わたしの願いを聞き届けられた後で
社長とは朗らかに話せるようになった。
向こうも遠慮なく忌憚なく。
いつだったか
「アンタは憎たらしいことも煙たいことも言うけど」
とも言われた。
わたしをけなしてるのではなく
評価を込めて、の言葉。
会社にとってはそれも大事なことやしな、と。
そうかあ、
煙たいんだ、
クスっと笑えた。
わたしをかっていてくれたであろう社長には悪いけれど
ここでの仕事はあと少し。