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手術のあれこれ


『コーヒールンバ』2002年5月27日


来月の手術にむけて
鉄剤を朝晩飲んでいる。
胃のむかつきがあると聞いていたけど
それはない。

ただひとつ、イヤなのは
コーヒーを控えなければならないこと。
効果がなくなってしまう、というのか
せっかく鉄剤を飲んでも吸収が悪くなってしまうから。

無類のコーヒー好きの私。
いったい一日に何杯飲むだろう。
怖くて数えられない。

一時はせめてその内、2、3杯は紅茶にしてみたこともあった。
(あまり意味はないかも)
でもすぐに挫折した。
アイスでもホットでも冷めていても
淹れたてでも温めなおしでもインスタントでもかまわないから
コーヒーが欲しい。

いうならば生きている証みたいなもの。
朝から眠る直前までコーヒーカップを手放さない私。



長年使った大ぶりのピーターラビットのカップを壊してからは
妹が買ってくれたムーミンの絵柄のを愛用している。
色はスカイブルー。
そして今月、ご存知Sターバックスのカップを贈られて使い始めた。
白地にあのグリーンの丸い商標が入っているだけ。
PCとコーヒーカップは仲良しだ。


昔、アラブの偉いお坊さんが
恋を忘れた哀れな男に教えたかどうか知らないけど、
恋を忘れても忘れられなくてもどのみちコーヒー好きの女はここにいる。







『検診日』2002年7月17日



術後一ヶ月の検診日。

相変わらず産婦人科外来は混み合っている。
初々しいプレママたちの中では
私のような女はかなり使い古した感じで
ピンク系の待合では異彩を放っている(だろうな)。

大病院にありがちの3時間待ちの3分診療。
本日は予約にもかかわらずそれにほぼ近く、
手持ちの本を読んでは眠気に襲われ
つけっぱなしのNHKの時代劇をぼんやり眺めては視線を宙に泳がせ・・・と
疲れる時間を過ごしていた。

今からもう4ヶ月も前になるのか・・
ここへやってきたのは。



ショーケースの中にあるアクセサリーを指差して
「ちょっとそれを見せてください」と私。
「こちらでございますか?」
ちょっと手にとって迷うような顔をして見せてから
「コレいただくわ」

私はそんな感じで手術を決めた。



友人知人が心配してくれるような喪失感は皆無で
ただ今も服を脱ぐたびにそこにある傷跡だけが
「もうないんだ」と語る。
「あっそ」と私。


入院中、すっぴん・パジャマ姿でしか会っていなかった
若いドクターMに診察室で顔をあわせ挨拶をし、なぜかお互いに照れ笑い。
婦人科医と患者の関係は微妙に揺れるのだった(謎)






『境界線』2002年11月19日



自分の勘というものを信じている。
自信過剰気味だとは思うけれど。

40年以上付き合ってきた私の心と身体。
りっぱにシンクロしているなあと感心することもあるし、
制御不能に陥って混乱をきたすこともしばしば。

「ちょっとヘンだ」という勘はたいてい当たっている。
言いようのない不安がじわじわとやってくる時、
それは素直に認めておかないと。
そういう歳になってしまった。
勢いと睡眠で押さえ込むことはもう出来ない。


昨日も重い足取りで開いた診察室のドアの中で
「偏食していますね」とズバリ指摘され
うなだれる懲りない私がいた。



今年初めて手術というものを経験し
ちょっと自分を見る眼は変わった気がする。
臓器ひとつ摘出したからといって
身体のメカニズムが劇的に変わるなどとは思っていなかった。
同様の手術を経験した女たちにしても
感想はさまざまだし。
気の持ちようではないかと思っている。

身体が変わるのではなくて
自分の身体を見る眼が変わっただけなのだ。


・術後、ベッドに横たわっていた私。
・摘出した子宮を持って陽気に部屋へやってきた医師。
・過剰に気遣ってくれた両親。
・縫合痕を「アクセント」だと言った男。
・傷が残ったことに同情してくれた若い医師。
・見て見ないふりをする他人の目。


毎日着替えるたびに目に入るそれは
死ぬまで消えることのない以前の私との境界線だ。






『腹痛』 2003年3月12日



下腹部にぼやーんとした痛みアリ

あぁ
そろそろ生理か

頭に浮かんだその考え
私は自分を恥じる

女として持って生まれたものを
腹を縦に裂いて取り出して
もう十月(とつき)近いというのに
“ここの痛みは月のもののせい”、
その思いは未だに消えないのだ
月の満ち欠けにつれそう波動は
私の体内でもう二度と起こることはないのに


「ワタシハ血ヲ流サナイ女」
その台詞が
右から左へスクリーンセーバーのように流れる
綾波レイか私は!

子の宮とは
神聖で穢れのない場所か
しかしその庭を一歩出るとどうだ
宮の守人は私を盗み見ていたはずだ



宮は炎上、倒壊、夢の後
ないはずの痛みを起こすのは
守人の亡霊かもしれないな