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同じく春



2002年春 日付不明

『蓮根』



窓の外には春の日差しが満ち溢れ
近所で始まった、家を新築する大工仕事の
威勢のいい音が聞こえてきます。
植物の色はといえば黄と緑にほぼ統一されているし
真新しい制服姿の学生が自転車をこぎ裏道を走り
買い物に出かければ新しい店員の緊張気味の接客。


そのような午後、
私は薄暗い台所で蓮根の泥を落とし洗い皮を剥き
さくっさくっと包丁を振るうのです。



泥に塗れたままパックされた蓮根は
不精な中年の無駄毛処理を思わせます。
ところどころに隠し切れない傷もあり
泥が入り込んで洗っても取れません。
手に取り、しばらく見つめて息を込め、
節でぱっきりと折ってやれば彼らはがくっとこと切れます。
穴からはつつうと体液のように薄い泥水が流れ落ち
私の手にかかります。
またそれを少しの間味わってやるのです。
取れない泥は包丁の角を使ってこそげ取るのですが
縦の繊維が強いのでスムーズにはいきません、手強いです。



やがて薄く輪切りにされて水に放たれた蓮根は
見違えるように愛らしく白く、
でも、生のまま噛んでやると
微かにレジスタンスの味がします。

これはやっぱり若者にはない
泥に一度浸かったことのある中年の味です。