リア充

スポーツ関係の大きなニュースが続く

 

それなのに

ビデオ撮るばかりで

引退会見含め

チラチラとしか見ていないし

なにより

大阪場所すら

ちゃんと見たのはたった一日というありさ

(もちろん結果はチェックしている)

 

鬱々と過ごした1月2月

3月に入ってからは打って変わって

仕事は多忙←これはよい意味

私生活もまあ落ち着いている

オーバーにあえて言うと

リア充ってやつだ

 

 

長年辛いことに接して過ごしていると

「こんな状態なんて長くは続かない」

と思う気持ちがあるわけで・・・

 

 

しかしまあ今はこれで良い

平成はあとわずか

それまでの1か月ちょいは

あれこれと予定も詰まっているので

あまり落ち込む時間もなく過ごせそうな気もする

 

がんばれわたし!

 

社員食堂

お昼のお弁当を食べるのは

社員食堂だ

 

食堂と言っても

別に食券を買って注文するという類のものではなく

それぞれお弁当や

食品フロアで購入したものを持ち込んで

レンジで温めたり

ポットのお湯を使ったりして食べている

 

なぜだか

座る位置や

一緒に座るメンバーが決まっている

慣れたテーブルが落ち着くからか

 

 

わたしは

いつも一番窓に近い隅っこのテーブルで

一人で食べる

 

食堂にはテレビがあり

そういう時間帯なのでワイドショウ(情報番組)が流れている

おおかたのひとは

そこで流れているネタについて感想を述べあいながら

お昼ご飯を食べている

もしくは

社内の愚痴を

 

この

“社内の愚痴・噂・評判”がなかなか辛い

集団から離れてスマホを操作したり雑誌を読んでいるわたしにも

もちろんその声は耳に入ってくる

聞かない、聞こえないふりをしていても

 

ワイドショウネタなんかよりたちが悪い

 

わたしの身内が社内にいるのを

彼女らは知っているのかいないのか

当人の話題でないにしろ

もしわたしが聞き耳を立てていて

そこから話が漏れるという危険性を思ったことはないのか

 

 

あまりにも無防備だ

 

 

席を立ちたくなることも何度かあった

話が漏れた場合

「あのとき食堂にいたあのひと(つまりわたし)が!」

となるのもごめんこうむりたいし

 

たかが食堂

しかし

ここにも女の(男性もいるが少数)怨念渦巻く

 

 

 

 

夢のような宴席は
そんなこんなで
瞬く間に過ぎてゆき
お開きとなる。


店の戸を開け外に出ると
温もった頬に冬の空気が心地よい。

寒いだろ?
おれのを掛けてけよ、と
ミフネくんがわたしの襟元に深紫のマフラーを。
すっぽりうもった鼻先に
タバコとさっきまでの鍋のにおいと
あと、なんだかいい匂いがした。
たぶん、昭和の男の。


ぼーっとしてしまったわたしに
すかさずナカダイくんが耳もとにささやく。

ここでふたりとはお別れですよ、と。

 

 

 

 

 

 

素足に下駄のカツくんと
(たぶん)カシミアのロングコートのミフネくんは
肩を組んで北に向かって歩き始めた。


いい宴会をありがとうな。
またたまには顔見せてくれ、と言いながら。


そしてわたしとナカダイくんは南へ。
その時、三味線が聞こえた。
あ、カツくん、ほら、
と振り返りかけたわたしを
ナカダイくんの手が強く押しとどめた。


振り向いては、いけません。


短いけれど厳しく優しいその言葉に
たくさんの意味が込められていることを
瞬時に察した。

と、同時に涙があふれる。


さあ、もう少し歩きましょうか。


ありがとうが声にならなくて
わたしは黙ったままうなずいた。

 




(終)

さあすっぽんだ。
ここで食べないわけにはいかない。


カツくんは器にすっぽんを取り分けている。

ヤナガワおまえ、最近やせ過ぎだ。
昔はもっと肉付き良かったよな?
まーたろくでもない男とややこしいことになって
恋やつれしてるんじゃないのかあ?
いかんいかん、
女はもうちっと肉付けて精つけて、っとぉ~
そんでもってこの後おれといいとこ行こうぜ、な?


こら、カツ、調子に乗るなよ。

そう言って笑いながらミフネくんがその器を取り上げ
おい、ほら、食えよ、食ってみろうまいから、と
わたしに差し出す。

ナカダイくんはあの眼で見てる。


わたしはそれを受け取り固まった。
さあどうするどうする。


湯気のあがる器を目の高さまで持ち上げ
わたしは声色を使って言った。


「・・・このすっぽん、おろそかには食わんぞ」

 

 

 

 

一瞬静まる座敷。
(この一瞬がわたしにはとても長く感じられた)


カツくんとミフネくんは
あのぎらつく眼で顔を見合わせてる。
箸とちりれんげを持ったまま。

静寂を破ったのはナカダイくんだった。

あーっはっはっはっは!これはいい!
いや、恐れ入った!

それにつられるようにあとのふたりも大声で笑い始める。

身体をゆすり三人の男たちがあのよく響く声で
げらげらと笑っている。
わたしがキャメラマンだったならこの掛け値なしのシーンを
フィルムに収めたことだろう。

わはははは
そうかヤナガワ!そう来たか!
クソまじめな顔しやがってこりゃまた結構!とカツくん。

ミフネくんはポケットからハンケチを出して
汗を拭きながら

ああ、久しぶりに笑った気がするな。いいセリフだ。
ただな、菊千代様のセリフじゃなかったのが口惜しいぜ。
しかし許す!いいぞヤナガワ。


 

(つづく)

 

 

“久しぶり”のひとたちと
お酒を呑んで
大好きな映画の話を聞き
笑顔を見ているのはほんとうに幸せだ
すでに酔いも回っているわたしが
決まり事をはずさないかは
冷静な幹事のナカダイくんがしっかりその眼技をもって制している

なので安心して時間を過ごすことが出来るのだ

おい、ヤナガワ
お前さっきから豆腐と野菜しか食ってないだろ
すっぽんいけよすっぽんを!

調子よくなってるカツくんが言う。

う・・・
実は困ってたのだ。
カニやカキさえ苦手なわたし、出汁はまあいいとして
すっぽん自体食べられるのだろうか。

 

 

ふと、今日の食事をすっぽん鍋にしたナカダイくんの意図を思う。

四人で囲む鍋料理希望とはわたし、言ったけれど
すき焼き、しゃぶしゃぶ、ふぐ、カニすき、数々ある中で
なぜすっぽんだったのか。

いや、このメンバーではやはりすっぽん鍋以外になかっただろう。

もしも、カツくんミフネくんだけだったとしたら
それはまるでとんかつをすき焼きに投げ込むようなもの。
このおふたりはどうしたって

今日のわたしにとってすっぽんだ。
そして控えているナカダイくんは薬味でありポン酢なのだ。


あらためて幹事の妙に感心し感謝した。

 

 

(つづく)

 

4

お銚子が運ばれ、宴が始まった。
わたしとミフネくんは瓶ビール。
もちろん黒地に星がついてるアレ。

おい、
こうやって四人でこの店、とは何年ぶりかな?
昔を思い出すな。

とミフネくんが話し始める。
もちろん初めてのことだけど・・
そんなことは関係なし。

鍋の湯気のなかで昔話が弾む。
撮影所のこと
監督や共演者との思い出
酒・女がらみの秘話
もちろんわたしも(約束なのでさりげなく)会話に加わる。


本当ならわたしが鍋の世話をすればよいのだろうけれど
手慣れているナカダイくんがやってくれるので
もっぱらお酌をしたり注いだり。

 

 

 

最近映画みてるかい?と
ミフネくんがわたしに話を振ってきた。

ええ、相変わらず古いのが多いですけどね
こんなだからなかなか話の合う人がいなくって。

ヤナガワは古臭い女だからな、とカツくん。
いやいやこれ、誉めてんだぜ。
ほら、今日のおべべもなかなかなもんだ。


そう、わたしは今日さんざん悩んだ挙句
お気に入りの黄八丈を着てきたのだ。
そう言うカツくんも和装だった。
が、
足を見るとなんと素足だ。

足袋はどうしたんですか?


おう、足袋か?
出がけにみたら破れてたんだ。探すの面倒でよ、そのまま下駄はいて来ちまった。
破れてた足袋はほれ、パンツのなかに入れてきた。
わーははは。

お前そういや「もうパンツははきません」とか言ってたんじゃないのか?
とミフネくんが突っ込む。

そうだ、ありゃあ名言?いや迷言だったなとナカダイくん。

爆笑する一同。

 

 

 

(つづく)

 

ほんとうにこんなことがあるのか?
からかわれたのか?

いやいや、
ナカダイくんはそんな手合いの人間じゃない。

指定された日が近づくにつれ
落ち着けわたし、と
三つの決まり事を唱え続け
その気になっていく。
一度も(実物に)会ったことはなくとも、
そして“あの世”からの客人であろうと、



「わたしは彼らと旧知の仲なのだ」

 




季節は冬。
会場は京都の老舗すっぽん料理店。
座敷に通されると
床の間を背にナカダイくんが鎮座していた。

 

やあやあいらっしゃい。
寒かったでしょう?まあお座りなさい。

いつだって彼は冷静かつおしゃれで紳士的。

 



最近どうですか?体調いかが?などと話しているうち
ミフネくん到着。
洋装だ。髪はきちんとなでつけてある。


よお!
いやあまいったまいった。
といいながらどっかと胡坐をかき
ネクタイを緩め、あごを撫でている。

なにがまいったのかしらないけれど
今日は機嫌良さそうで一安心。
だって機嫌の悪いときの彼に
ヘタに声はかけられない。
寄らば斬るぞ、みたいな。

 

 

 

あとはカツか?
あいつ遅いな。
さきに始めちまおうぜ、とのミフネくんの声に
みんなで卓上の材料に目をやっていると
ガラっとふすまが開きカツくん登場。


う゛う゛~
寒いったらありゃしない。
鼻水も凍っちまう!
あ゛~腹減ってんだ。
いや待て、それより酒だ!酒!

 

 

(つづく)